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大津地方裁判所 昭和33年(わ)123号 判決 1960年3月10日

被告人 西田春雄

明四四・三・二七生 錻力職

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は、「被告人は昭和三十三年五月二十二日施行の衆議院議員選挙に際し、同月一日滋賀県より立候補した宇野宗佑の選挙運動者であるが、第一、同月十八日頃同県野洲郡守山町大字守山甲一〇一三番地所在の光明寺の右候補者の選挙事務所において、同候補者の出納責任者である大西孝一より同候補者のため投票取纒め等の選挙運動を依頼され、その買収資金として交付されるものであることの情を知りながら金二万円の交付を受け、第二、同日頃同町大字吉身四三九番地の南井太一方において同候補者の選挙運動者である南井太一に対し、同候補者に当選を得しめる目的をもつて、同候補者のため投票取纒め等の選挙運動を依頼し、その買収資金として金三千円を交付したもの」であるというのである。しかして、大西孝一の検察官に対する供述調書(第一項乃至第三項)第二回公判調書中証人大西孝一の供述記載(右第一の事実に符合する部分のみ)、南井太一の検察官に対する供述調書、及び被告人の司法警察員に対する昭和三十三年六月十七日附、検察官に対する同月二十三日附各供述調書を綜合すれば、右各事実はこれを認め得るのであるが、一方右各証拠を綜合すると、被告人は大西孝一との間に吉身八区の選挙人、及び湖南中学の校長その他被告人の知人を買収することを共謀し、その買収資金として前記金二万円の交付を受け、更に、被告人は南井太一との間に吉身八区の区長である野田村八十司を買収することを共謀し、その買収資金として前記金三千円を南井太一に交付したことを認めることができる。すなわち、右の段階においては、被告人としては未だ当初の共謀を実行行為に移していないものというほかない。然らば右各金員の授受はいずれも共謀による買収実現のためにする共謀者間の内部関係における準備行為に外ならないから、右共謀者間における買収資金授受の行為はそれだけでは公職選挙法第二百二十一条第一項第五号にいわゆる交付罪の成立を認めることはできないものと解する。そしてこの結論は共謀者中右供与資金を受領した者がその金員の一部或は全部を自己の手許に保留し又は他の趣旨に使用した場合でも異なる所がない。従つて、公訴事実第一及び第二ともに罪とならないから、刑事訴訟法第三百三十六条により無罪の言渡をする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐古田英郎)

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